「歯をガリガリ削る」治療は時代遅れ
『歯 良い治療悪い治療の見分け方』(農文協)などの著書がある歯科医 丸橋賢氏のクリニック(群馬県高崎市「丸橋歯科クリニッック」)には 歯科医で治療を受けて逆に歯のトラブルを抱えてしまった患者が助けを求めて全国から駆け込んでくるという。「歯列を矯正したのにそれから体のハランスか崩れ歩けなくなってしまった人や、インプラントを入れてから 流動食しか食べられなくなってしまったという人など深刻な症状を訴える人もいます。また、根管治療をしたにもかかわらず 歯か穿孔し歯根の間の骨は真っ黒に溶けて化膿していたり、被せてある歯のすべての根管治療かデタラメで化膿していたりする患者は珍しくありません。とにかく粗悪治療の多さに驚いています。1千人の初診を見て、これはまあ丁寧な治療をしてあるなどと思う例は、ほんの数人。本当に良質な治療を施されいる例はめったにないですね」適合不良の充填と冠にも失敗例がよくある。「虫歯は歯と充填物の問に50ミクロン以上の隙間があると、簡単に再発してしまうのにまったく適合してなく、大きな隙間があり 再発してしまったという患者も多いですね。咬合の具合もひどい。高価な金属焼付けポーセレン冠を使った治療でも顎偏位症になる一歩手前のような悲惨な状態で来院する患者がいます」(丸橋稀氏)
さらに許せないのが、子供たちの虫歯治療だ。虫歯でもない子供の歯を「予防治療」という名目で、奥歯に片っ端から詰め物をしている歯医者も実に多いのだ。その詰め物とは、シーラント(虫歯予防充填剤)やCR(コンンポジットレジン)と呼ばれるものだ。あなたの子供の歯を見てほしい。奥歯のデコボコした谷間を埋めるように細く流して滑らかにしている白い詰め物かあれば、それは間違いなくシーラントやCRだ。
「歯か少し黒くなっていたり、少しだけへこみがあるような場合は、虫歯になる可能性があるので、予防治療として多くの歯科医は、黒い部分をほんの少しだけ削って、シーラントを入れるのです。でも、多くの場合はエナメル質が着色している程度のもので、正しいブラッシングと、食生活を改善すれば再石灰化して治ってしまいますし、それでも虫歯の疑いがあれば、ハードレーザー(レーザーを使って感染した歯質を蒸散させる)で処理すればよい」(前出・丸橋氏)
現在の日本では、子供の虫歯は減る傾向にある。厚生労働省では、6年ごとに「う蝕有病者数」を調査しているが、平成11年の歯科疾患実態調査によると 乳歯では1〜15歳未満でう蝕有病者数は45.2パーセント。平成5年時調査の56.87パーセントより約12パーセントも減っている。また乳歯+永久歯も平成11年は78.34パーセントで、前回の90.41パーセントより、約12パーセント低い。しかし、前述の丸橋氏がある小学校で6六年生を調査したところによると、85パーセントの生徒に、シーラントあるいはCRが詰められていたという。また別の小学校でも同じような調査をすると75パーセントも詰められていた。
東京都中野区で「林歯科」を開業する歯科医、林晋哉氏と歯科技工士の林裕之氏も子供の予防治療の現状に警鐘を鳴らす必要があるという。「虫歯の早期発見は大切ですが、少し歯がへこんでいるからと言って、そこにシーラントを詰めると、噛み食わせが変わってきてかえって歯が悪くなってしまうこともあります。奥歯のへこんだところなど、痛みを訴えていないばあいはサホライド(フッ化ジアミン銀)という進行止めを塗っておくだけの方がいい場合もある。
「詳しく言うと、シーラントやCRのレジンの成分の中にGMAという多機能モノマーが使用されており、ビスGMAの成分として、ビスフェノールAが含まれているのです。日本でも、千葉県薬剤師会検査センターの分析で、シーラントやCRの成分は水には溶出しないが、唾液中には溶出することが確認されています。これらの詰め物が咬耗して食事のたびに胃に入ることも考えられるのです。安全性が確認されない材料は用いないというのが医学の常道。しかし、わたしが『危険性が指摘されているものを材料に使うべきでほない』とテレビのインタビューで発言したところ、歯科医師団体や歯科医師から、多くの抗議や嫌がらせの文書が送りつけられてきました」(同前)
実は、このシーラント、歯科医の技術がいい加減だと、高確率で取れてしまう。神山紀久男東北大名誉教授(小児歯科)が集めたデータでは92二パーセントが外れてしまったという報告もあるほどだ。日本の歯科医療状況は先進諸国に比べてかなり遅れている。前出の中山歯科医も、日本の予防歯科医療の遅れを指摘する。「虫歯や歯周病は、プラークコントロール(ナイロン製の細い糸や歯間ブラシ、歯ブラシなどできちっと歯をケアすること)を丹念に行ない、フッ素やキシリトールで歯を守り定期検診などをきちっと受けていれば、かなりの確立で防げるものです。しかし、日本は予防医療には保険の点数も低く、お金にならないとして力を入れていない歯科医が多すぎます。EU諸国では国をあげて予防医療に取り組んでいる。その結果、どんどん患者の数が減ってきて、歯科医院の経営が存続できない状態にまでなっているのです。オランダではかつて5校あっだ歯科大学が、患者の激減により2校に統合されてしまいました。日本の国民医療費の負担が社会問題になっていますが、諸外国の例からも、こうした予防治寮をしっかりすることで、将来の医療費の減少も見込めるのです」(前出・中山氏)
さらに、日本にはもう1つ遅れている治療がある。それは歯科治療の基本である虫歯治療だ。虫歯になると、歯の黒く変色した部分をガリガリと削り金属を詰め、再発するとより大きく削り詰め物を入れる、削ると痛いときは麻酔を打つ。この治療法は発案者の名をとって「ブラックの法則」と呼ばれており、日本では多くの歯科医がこの治療法を用いている。しかし、この法則で治療を続けているのは、先進諸国では日本くらいだというから驚きだ。前出の林歯科医は言う。「1990年にWHO(世界保健機関)の傘下にあるFDI(国際歯科連盟)は『ブラックの法則の完全撤回』という通達を出しました。通達の内容を簡単に言えば、歯を必要以上に削ってはならないということです。イギリスの保健省の.過剰診療調査委員会では、ブラックの法用の完全撤回を受けて、『この改革についてこられない歯科医は無能である』との報告書を出したくらい諸外国の歯科治療の流れは変化しているのです。しかし、日本ではこうした情報も歯科医に届かず、また、自分で勉強しようともしない歯医者ばかりなので、相変わらず安易にガリガリ削る」